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東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)33号 判決

原告 東和ゴム株式会社

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十六年抗告審判第五二〇号事件について、特許庁が昭和二十七年九月三十日になした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、以前東和護謨株式会社と称し、後東和ゴム株式会社と商号を変更したものであるが、昭和二十五年五月六日別紙に記載するように、黒く塗り潰した五陵星の図形で構成せられる原告の商標について、第三十六類ゴム合羽、ゴム手袋、その他本類に属する商品を指定商品として、登録を出願したところ、(昭和二十五年商標登録願第一〇、〇六四号事件)、拒絶査定を受けたので、昭和二十六年七月十三日抗告審判を請求したが(昭和二十六年抗告審判第五二〇号事件)、特許庁は、昭和二十七年九月三十日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、同年十月八日原告に送達せられた。

二、審決は、別紙に記載する登録第二二三〇五五号商標を引用し、右商標は、円輪廓内に黒く塗り潰した五陵星を現わして構成されたものであると認定し、これと原告の商標とを対比して、両者は、その外観において、単に円輪廓の有無に過ぎないから、外観上類似の範囲を脱しないばかりでなく、またこれを称呼及び観念から観察するときは、引用商標の円輪廓は、ありふれた輪廓であつて、この種の輪廓は、通常商標中に使用せられるも、一般世人はこれを看過省略することは、経験則に徴し明かなところであるから、この商標もまた単なる「星」印として、称呼、観念せられることは、決して不自然ではなく、従つてこれと同一の称呼観念を有する本件商標は、この点において類似の商標たるを免れざるとともに、二者はその指定商品においても、互に相ていしよくするから、結局本件商標は、商標法第二条第一項第九号に該当し、この登録は、これを拒否すべきものであるといつている。

三、しかしながら、右審決は、次の点において違法である。

(一)  商標は、商標法第一条第二項所定のように、文字、図形、若しくは記号の結合にして、特別顕著性を具有するときは、登録せられるものなるのみならず、同法第十五条第一項に、商標権者の登録商標の不正使用に対する制裁規定の存することから察するも、二者商標の類否は、該商標構成の各要素を綜合包含せしめて判定すべきものにして、商標の構成部分、いわんやその要部の任意部分を、その時々により、勝手に分離拾捨し、その一部を摘出対比して決定すべきものではない。

しかるに審決は、前記引用商標は、太線にて現わせる「円輪廓」と「星」の図形との結合を不可分的構成要部としているものであるのにかかわらず、「太線で顕著に現わした円輪廓」の存在を、その外観において単に円輪廓の有無に過ぎざるが如く軽視せるのみならず、円輪廓はありふれた輪廓とし、前述のような、現実社会における商取引上の事実とは、逆の勝手な独断的判定のもとに、原告の出願を拒絶したのは、法意を無視したものである。

(二)  引用商標は、「太線で顕著に現わした円輪廓」と「星」の図形との結合をその不可分的構成要素となし、単に「星」の図形のみを表示した本件商標とは、その外観が、これを離隔的に観察しても、全然別異であるばかりでなく、右商標の構成上から、前者は、これを「丸星」または「星丸」と称呼すべきものにして、現に「丸星」と称呼して取引せられつゝあるものであるのに、後者は単なる「星」の称呼及び観念を有するもので、両者は外観、称呼及び観念のいずれの点においても、自他商品を区別する標識たる商標として、商取引上毫もまぎらわしいものではない。

(三)  しかのみならず、特許庁は、これより先、昭和二十六年抗告審判第四三三号事件において、本件において引用された前記登録第二二三〇五五号商標は、その構成上よりして、「丸星」または「星丸」の称呼、観念を生ずるものであることは疑う余地のないことであると断定しながら、本件については、前述のように説示し、一商標を、ある時はその構成を不可分的に、またある時は、その一要部を放てきし、他の一部のみを摘出対比するように、その時々により、独断的に、二律背反的の解釈を下しているのは、商取引の実情を無視して、拒絶せんがために拒絶したもので、極めて不当といわなければならない。

(四)  聯合商標に関する商標法第三条の規定から見て、若し前記引用例と原告の本件出願商標とが審決のいうように、相類似するものだとすれば、第三十六類において、本件引用登録商標が存する以上、星の図形の左右に「星」「印」の文字を書いて構成されている、登録第三七六一〇九号、同第三七六一一〇号、同第三七七四四九号の登録は許されるべきでなく、また第六十一類において、円輪廓に星の図形と、それぞれ円輪廓の外部及び内部に「丸」「星」の文字を書いて構成されている登録第三七五七〇〇号及び同第三八〇二二七号商標が存在する以上、本件出願商標と同一の、星の図形だけで構成されている同第四二〇二九〇号の登録は許されないはずである。しかるにこれらが夫々独立の商標として登録されている事実は、審決が誤つていることを如実に物語るものに他ならない。

(五)  特定の二つの商標において、□、◇、○、、、等の輪廓の有無、輪廓の異別、相異が、商標を全然別個のものたらしめ、異別の商標として、現実に登録せられている事例は、枚挙にいとまがない。このような商標の実例は、第四十一類「醤油、ソース及び酢の類」、第四十五類「他類に属せざる食料品及び加味品」に属する商品について多く見るところであるが、右事例は、決してこれらある特定の部類の商品に限られたものでなく、各類を通じ、あらゆる部類の商標に共通する観念というべきであつて、むしろ輪廓の有無及び相異は、二者商標類否判定の決定的必須要件といつても、決して過言ではないのに、審決が、これを無視し、前述のように説示しているのは、およそ実際商取引とは全く相反した、主観的机上空論であつて、法の根本精神を冒とくしたものといわなければならない。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因としての主張に対し、次のように述べた。

一、原告主張一及び二の事実を認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

原告の商標と、引用登録商標とは、黒く塗り潰した五陵星に、円輪廓を施した有無の差異が存するのみで、この程度の差異を以て、両者が外観上全然別異のものと断ずるものではない。何となれば、後者は星の図形が要部と認められるからである。また称呼、観念上からこれをみるに、右に述べた円輪廓は、ありふれた輪廓で、商標として看過され省略され勝ちであることは迅速を尚ぶ商取引における経験則に徴し明らかである。そうしてみれば両者は、「星」印として外観、称呼、観念上の類似商標と認めるを相当とする。

第四証拠<省略>

三、理  由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実と、その成立に争のない甲第一号証(原告の本件商標登録願書)と乙第一号証(登録第二二三〇五五号商標出願公告)とを総合すれば、原告の本件出願商標は、別紙に記載するように、塗りつぶした星の図形だけで構成され第三十六類、ゴム合羽、ゴム手袋、その他本類に属する商品を指定商品とするものであり、審決に引用した登録第二二三〇五五号商標は、同じく別紙に記載するように、円形のひとえの輪廓のなかに塗りつぶした星を描いて構成され、第三十六類莫大小製品その他本類に属する商品を指定商品とするものであることが認められる。

三、引用登録商標は、右のように、星の図形に円形の輪廓をつけたものであるから、単に星の図形だけで構成されている原告の商標とは、これを両々相対比して観察すれば、外観も異つているし、その名称も、原告のいうように、「丸星」、「星丸」または「丸に星」、「星に丸」等の名で呼ばれ、観念もまたこれに従つて生じ、原告の商標の称呼及び観念が、単純に「星」であるのと区別される場合が多いことは明かである。(特許庁が、原告主張の事件で、引用商標が「丸星」または「星丸」の称呼観念を生ずるとしたのは、その一例である。)

四、しかしながら商標の類否の判定は、これを各別に時と所とを異にして観察した場合を標準とすべきであつて、一般の取引者、需要者、ことに本件両商標共通の指定商品である第三十六類の被服、手巾、釦紐及び装身用「ピン」の類を購入するような人々のことを念頭において考えると、引用商標によつて表示せられた商品を記載するのに、必ずしも正確に商標全体の外観を想起せず、商標の中心にはつきり現われている「星」の図形だけによつてこれを記憶し、従つてまたこれを単に「星」印と呼んで取引する場合も、決して少くないと解せられる。

してみれば、引用登録商標と、原告の本件出願商標とは、いわゆる離隔的観察において、その外観、称呼、観念を共通にし、互に類似した商標といわなければならない。

原告は、商標における輪廓の有無、相異は、二者商標類否判定の決定的要件であると主張し、特許庁における登録例を引用しているが、前記引用登録におけるひとえの円形の輪廓は、世上比較的ありふれたもので、特別に人の注意を引く類似のものではなく、また、右引用商標が、商取引の実際において、原告の主張するように、不可分的に結合した一体としてのみ取り扱われているとの事実は、これを認めるに足る証拠はないから、少くとも本件においては、右円形の輪廓の有無が商標の類否判定について、決定的な効果を有するとの原告の主張は、これを採用することができない。また原告の主張する特許庁における審査例も、未だ前記認定をひるがえしめるに足りない。

五、以上の理由により、これと同一趣旨に出でた審決には、原告主張のような違法はないから、原告の本訴請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

(別紙省略)

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